男の隠れ家

一人で仕事を始めたころ、自分の事を知ってもらおうと、手作りチラシを配って歩いていた。

長年、自宅と会社を行き来するだけの生活だったので、どこにどんな人がいるのか分からない。

恐る恐る配っていた。

 

そんな中、最初に出会った男性がいる。

私は、その方の仕事場に足を踏み入れたのだった。

 

仕事場は、天井の高い木造の農業倉庫を活用したものだった。

仕事に使う資材が山積みになっていた。

ギター、アンプ、レコード、プラモデル、よく分からない玩具など、趣味の物まで置かれていた。

平屋でスペースに限界があり、奥に行くのも大変な状態だった。

 

私は建築設計事務所を地元で始めたと伝えた。

「あのさ、中二階作りたいんだよね。いくらくらいで出来るのかな?」

これが、最初に掛けられた言葉である。

 

電動工具を一式持っている程、物作りは得意な方だが、本業が忙しく、中途半端な状態がずっと続いていたそうだ。

また、頭の中で色々シュミレーションしてみるが、やり方が分からない箇所が出てくると、自分で作るのは無理かなと諦めていたという。

そんな所に私が現れたのだ。

 

「このくらいの金額で出来ると思いますよ」

と私が言う。

「お願いしようかな」

と計画がスタートした。

 

あれから3年が経つ。

 

自宅の近くなので、私はコンビニに行った帰りに寄ってみたりする。

以前は、野地板がむき出しだった所に、天井が貼られている。

断熱材まで入れられている。

照明が付いて、良い雰囲気だ。

仕事がない時間を使い、自分で内装工事を進めているのだという。

 

「来年の夏までに、壁を作り、エアコンの効く部屋にしよと思う」

「ドアは、禁酒法時代のアメリカのバ―の入口みたいにしたい。」

「シャワー室の場所も検討中なんだ」

なんとも楽しそで、うらやましい。

私も、自宅以外の場所に、早く仕事場を持ちたいと思った。