職人の技術に頼り過ぎない設計

普通の材料を、いつもと違う組み合わせ方をすることで、見たこともない建物を作る。私が今まで行ってきた仕事を表現するとすれば、そう言えるかもしれない。

 

基本的には、私は大工さんの技術に頼らなくても、一定のクオリティーになるような設計を心掛けている。具体的には、機能性は計画と設計で担保しつつ、形、線、色の特徴を活かし、魅力や個性を与える手法である。

 

私はこれまで比較的ローコストな建物の設計を行ったきた。他の会社では、予算内に納めようとすると、ありきたりの建物になってしまう、けれど、クライアントはこだわりがある、そんな仕事を多く手掛けてきた。材料は流通材、職人なら誰でも出来る技術、それらを上手く組み合わせる。すると、形と線と色をどう扱って行くか、というテーマが唯一残されているのだ。

 

戸塚のスタジオも、それに当てはまる施工事例だった。天井が高く、柱のない広い部屋を作ろうとすると、照明の課題が発生する。私は、通常、外周部に配置する火打ち梁を室内側に設け、一まとまりの田の字型の図形のように扱い、そこに電球を取付られるようにした。すると、必要悪だった火打ち梁が、夜空に光る星のようになる。おまけに、脚立があれば、電球の交換も出来る。壁面は火打ち梁がなくスッキリしている。外周部に設け場合と比べると、火打ち梁の本数が多くなるが、それ以上のメリットを生み出すことが出来た。

 

このように、普通の設計者では考え付かない方法を、普通の材料で行うことで、その場所、その計画、でしか生まれない価値を創造している。